一般社団法人みんなの住宅研究所という団体をご存知でしょうか。この団体は最近設立された主に全国の工務店向けの次世代の家づくりの為の推奨仕様や問題点を共有するような趣旨の団体ですが、我々エンドユーザー(施主)向けにも断熱・構造・耐久性の各方面の第一人者と呼ばれるような方々が考えた推奨仕様リストを公開しています。

この団体はYouTubeで数多くの非常に役立つ動画を公開している松尾設計室の松尾和也氏や構造塾の佐藤実氏が理事を務めているので家系のYouTubeをよく見る人ならご存知の方もいるかと思います。

私は家づくりの勉強の為に松尾設計室のYouTubeチャンネルの動画は全て見ていてその中の動画でこの団体の存在を知ったのですが、施主にとっても有用なリストなので県民共済住宅で家を建てる場合はこの推奨仕様リストをどの位満たせるのかをチェックしてみました。

この記事で断熱、構造、耐久性の3項目全てをチェックしてみるつもりでしたが、思っていたよりもボリュームが出そうなので各項目で記事を分けることにしました。今回は断熱(省エネ)についてチェックしてみます。

構造と耐久性に関しては別記事で公開しました。

みんなの住宅研究所の推奨仕様

みんなの住宅研究所の推奨仕様リストは、断熱、構造、耐久性の3項目でそれぞれの推奨仕様をリスト化してプロ(工務店や設計者)向けとエンドユーザー(施主)向けのそれぞれのリストを公開しています。

県民共済住宅で家を建てようとする私達はエンドユーザーに当たるのでエンドユーザー向けの推奨仕様を参考にしてみましょう。

本リストが対象とする想定は、新築の戸建て木造住宅(延床面積300m2未満の小規模建築物)です。

住宅に求められる性能は多種多様ですが、その中から特に重要な「構造」、「断熱(省エネ)」、「耐久性」の3つのジャンルについて取り上げています。それぞれのジャンルの中でも、当団体が推奨する項目を中心に、下記のように到達レベルの目安を定めています

「A」の内容は最低限もしくは問題ありという点で、当団体は2021年以降に建築する住宅としては性能が不足していると判断します

「B.当団体が考える推奨レベル」の内容は、当団体が考える押さえておくべきレベルです

「C.当団体が考える理想レベル」の内容は、当団体としてB.の推奨基準を上回る理想的なレベルです

各ジャンルは「プロ向け」と「エンドユーザー向け」に分かれています。

顧客がご自身で参考とされる場合は「エンドユーザー向け」をご覧ください。

一般社団法人みんなの住宅研究所の【みんなの住宅研究所】推奨仕様リストについてより引用

推奨仕様リストの見方としてはABCの3段階で目安となる基準を示してくれています。

断熱(省エネ)

みんなの住宅研究所の推奨仕様リスト「断熱(省エネ)」エンドユーザー向けから転載
みんなの住宅研究所の推奨仕様リスト「断熱(省エネ)」エンドユーザー向けから転載

まずは断熱性能の推奨仕様リストを見てみるとこの様に10項目ほど推奨仕様が提示されています。推奨仕様リストはPDFファイルでアップされていて誰でも見ることが出来ます。

  • A. 国が定める基準を元にしたレベル
  • B. 当団体が考える推奨レベル
  • C. 当団体が考える理想レベル

表を見るとこの様にABCに分かれています。Aが「国が定める基準を元にしたレベル」ですが、みんなの住宅研究所の推奨仕様リストのABCの説明を見ると下記の様に性能不足と言えるレベルです。

「A」の内容は最低限もしくは問題ありという点で、当団体は2021年以降に建築する住宅としては性能が不足していると判断します

一般社団法人みんなの住宅研究所の【みんなの住宅研究所】推奨仕様リストについてより引用

なのでBやCを目指すのが望ましいと言えます。みんなの住宅研究所の推奨基準を解説したYouTubeの動画を見るとBでもギリギリ合格Cで合格みたいな感じでした。

家にどれだけお金をかけられるかは人それぞれですが、各分野の有識者がこの位の性能を満たせば快適な家になるという判断基準を示してくれているのでどのハウスメーカーや工務店にするのかを決める上で大変有用なリストだと思います。

ハウスメーカーや工務店のWEBサイトを見ただけでは情報が出ていない所が多いので判断できませんが、実際にハウスメーカーや工務店の担当者に話を聞く時にこのリストがあると低レベルな業者を振るいにかける上で便利そうです。

これらの項目を満たした上でデザイン面だったり設備だったりが良いハウスメーカーや工務店を選ぶと長期的に見ても良い家が建ちそうですね。

断熱性能レベル(UA値)

県民共済住宅で使用している断熱材

UA値の基準は「Aの国の基準の断熱等級4(6地域:UA値0.87以下)」、Bが「HEAT20 G2グレード付近(6地域:UA値0.48以下)」、Cが「HEAT20 G2グレード超え(6地域:UA値0.34前後)」となります。

県民共済住宅のUA値は標準仕様の断熱材だと0.5前後、高断熱仕様の断熱材だと0.4台前半位になるので標準仕様の断熱材にアルミ樹脂複合サッシ(LIXILのサーモスII H)の場合は「A」、標準仕様の断熱材に樹脂サッシ(YKKAPのAPW330)でなおかつ窓が最小限の場合は限りなく「B」に近い「A」で高断熱仕様の断熱材に樹脂サッシの場合は「B」となります。

標準仕様だとやや物足りないかな?と言う位で高断熱仕様のオプションを入れれば合格レベルまで持っていけます。

気密性能レベル(C値)

気密性能レベルはAが「基準なし」、Bが「C値(相当隙間面積)1.0以下は必須」、Cが「C値0.3前後」となります。C値は断熱施工後に気密測定を行って測定する値です。

県民共済住宅の場合はそもそも気密測定を行っていない事もあり、「A」に該当する可能性が非常に高いです。気密に関しては不合格でしょう。

結露検討

結露検討はAが検討なし、Bが透湿抵抗比での検討でクリア、Cが結露計算の検討でクリアとあります。

後日担当の設計士さんに確認した所、結露計算は行っていないとの事です。採用する部材の仕様を見てこれなら大丈夫だろうと仕様を決めているとの事なので「A」だと思います。

サッシ仕様

県民共済住宅の標準仕様のサッシ

サッシ仕様はAが「樹脂アルミ枠」、Bが「樹脂枠アルゴンLow-Eペアガラス」で「樹脂スペーサー仕様」、Cが「樹脂枠アルゴンLow-Eトリプルガラス」で「樹脂スペーサー仕様」となります。

県民共済住宅では標準の窓(サッシ)はYKKAPのAPW330(樹脂サッシ、アルゴンガス入り遮熱Low-Eペアガラス、アルミスペーサー)LIXILのサーモスII H(アルミ樹脂複合サッシ)の2種類を選択することが出来ます。LIXILのサーモスII Hを選ぶとアルミ樹脂複合サッシなので「A」でYKKAPのAPW330を選ぶと樹脂サッシなので「B」の樹脂枠アルゴンLow-Eペアガラスの条件は満たせますが、標準仕様だと窓のスペーサーがアルミスペーサーになるので限りなく「B」に近い「A」になります。

なお、窓の樹脂スペーサーへの変更は県民共済住宅では不可能となっています。

県民共済住宅の場合、外皮性能に関わる部分の自由度は低いので現状APW430の様なトリプルガラスのサッシを導入することは出来ません。

天井屋根部断熱

天井屋根部断熱はAが「天井断熱R値4」または「屋根断熱R値4.6」、Bが「天井断熱R値4.4」または「屋根断熱R値5」、Cが「天井断熱R値6.6」または「屋根断熱R値7.5」となります。R値は天井もしくは屋根部分に使われている断熱材の熱抵抗値の事です。

県民共済住宅の断熱仕様は天井断熱です。最上階が勾配天井になっている場合は勾配天井部分が屋根断熱になるはずです。標準仕様の天井の断熱材のR値は4.1で「A」になりますが、オプションの高断熱仕様の断熱材だとR値が5.7になるので「B」になります。

この天井屋根部断熱は夏の暑さ対策として効いてくる箇所です。標準仕様だとやはり物足りないと言えそうなので高断熱仕様にした方が快適になりそうです。

暖房計画

暖房計画はAが「基準なし」、Bが「全居室に排気ガスを室内に放出しない暖房器具を設置」、「できればエアコンかFF式灯油ファンヒーター」、Cが「家全体を暖房できる総合的な暖房計画」となります。FF式灯油ファンヒーターは室外に燃焼ガスを排気するタイプの定期的な換気が不要なファンヒーターの事を指します。

県民共済住宅では特に暖房の基準はないと思うので「A」ですが、施主の間取りとエアコンをどれだけ付けるか次第で「A」にもなれば「B」にもなります。この項目は施主次第で「A」にもなれば「B」にもなり「C」にも出来ます

暖房計画については完全に施主次第な所なので施主自身がしっかり勉強して工夫することでより快適な家にする事が出来ると思います。

冷房計画

冷房計画はAが「基準なし」、Bが「全居室にエアコンを設置」、Cが「家全体を冷房できる総合的な冷房計画」となります。

暖房と同じく県民共済住宅では特に冷房の基準はないと思うので「A」ですが、普通の人は全ての居室にエアコンをつけると思うので実質「B」だと思います。この項目は施主次第で「A」にもなれば「B」にもなり「C」にも出来ます

冷房計画も間取りを作る時にしっかり考えておけばより快適な家になる可能性が高いです。

冬の日射取得と夏の日射遮蔽

Aが「基準なし」、Bが「完璧ではないがある程度検討されている」、Cが「完璧に近い所まで検討されている」となります。

県民共済住宅では日射のコントロールまで考えた設計はしていないので「A」だと思います。この項目は施主次第で「A」にもなれば「B」にもなり「C」にも出来ます

日射のコントロールは季節問わずにとても大切な事なので間取りを作る際、特に窓を決める際には日射の影響をきちんと考えておくことが重要です。県民共済住宅の断熱性能は標準仕様でも低くはないので良くも悪くも熱が抜けにくく、特に夏場の日射遮蔽が疎かになってしまうと窓から日射熱がダイレクトで入ってきて夏場がクソ暑い家になりかねません。昔の家だと室内に日射熱が入ってきても断熱性能が低いのでその熱が家から抜けるのも早かったので問題になりませんでしたが、今の高断熱の家だと断熱材で熱が抜けにくいので日射遮蔽を怠ると夏涼しい家どころか夏暑い家になってしまいます。

給湯器の種類

県民共済住宅のエコジョーズ

給湯器の種類はAが「従来型のガス給湯器」、BとCが「エコキュート」もしくは「エコワン」、または「エコジョーズ+太陽熱温水器」となっています。

県民共済住宅の標準はエコジョーズですが太陽熱温水器はついていません。太陽熱温水器を付けるなら引き渡し後に後付になると思います。なので標準仕様だと「A」になりますが、オプションでエコキュートもエコワンも設定があるので「B」に出来ます

給湯は地味に一般家庭の中では最もエネルギーを使う所なので高効率の給湯器を入れるとお湯の仕様状況にもよりますが毎月の光熱費が数千円単位で安くなると思います。オプションのエコキュートはエコキュートの設置場所さえ確保できれば年間給湯保温効率が4.0や3.8の高性能なエコキュートが入れられます。

薄型省スペースのエコキュートは年間給湯保温効率が3.0と高性能なエコキュートと比べてかなり落ちるので可能なら薄型ではないタイプのエコキュートを入れると光熱費の削減に繋がります。

太陽光発電

太陽光発電はAが「基準なし」、Bが「家族の人数分×kW数設置」、Cが「ZEHレベル」となっています。

県民共済住宅の標準仕様では太陽光発電はついていないので「A」ですが、太陽光発電のオプションがあるので「B」や「C」にすることも可能です。

県民共済住宅の太陽光発電のオプション価格は2021年時点でkW単価が27万〜30万位なので普通〜やや高めの印象です。屋根の保証が無くなりますが太陽光発電を他社で入れた方が2割位安くなりそうな感じはします。

県民共済住宅の断熱性能について

こうして見てみると県民共済住宅の標準仕様では全項目が「A」の最低限もしくは問題ありになります。断熱性能レベルとサッシ仕様についてはほぼ「B」に近い「A」になりますが、オプションの導入で断熱性能レベル(UA値)、天井屋根部断熱が「B」の推奨レベル、給湯器、太陽光発電の項目が「B」もしくは「C」の理想レベルにする事が出来ます

いくつかの項目をBの推奨レベルにするためのオプション費用

断熱性能レベルと天井屋根部断熱を「A」から「B」に上げるために必要な高断熱仕様のオプションを入れると税込20,900円+坪11,000円(平屋は+坪16,500円)の費用がかかるので2階建ての35坪でプラス40万円、給湯器をオプションのエコキュートかエコワンにするのにプラス365,200円、オプションの太陽光発電を導入するのにプラス130万円前後(kW単価27〜30万)の費用が発生します。

これらを全て満たそうとすると大体210万円位のプラスになります。坪単価だと7万円位のプラスになる感じですね。高額な太陽光発電を入れなければ80万円位のプラスになり坪単価だと3万円位のプラスになると思います。

県民共済住宅の太陽光発電は別記事の「県民共済住宅の太陽光発電と蓄電池のオプションで元は取れるか」で採算性を計算しましたが、大体10〜13年位で元が取れる感じでした。オプションでは長州産業とパナソニックの2択ですが、kW単価と変換効率の両方がパナソニックよりも長州産業の方が優れているので県民共済住宅のオプションで太陽光パネルを入れるなら長州産業の方が良いと思います。

推奨レベルをほぼ確実に満たせない項目

気密性能に関しては気密測定をしていないのと断熱材が袋入りグラスウールでなおかつ下請けの大工さんが施工することもあり、施工品質は正直あまり期待出来ないと思うので厳しいんじゃないかなと思います。

気密測定をしたことのある施主ブロガーさんはアメブロのゆうパパさんのブログで建築後に気密測定をしてC値3.5という数値が出た記事がありましたが、それ以外で気密測定をした施主ブロガーさんを見つけることが出来ませんでした。

私も可能なら気密測定を行いたいと思います。出来れば手直しが出来る建築中に行いたいので契約後に現場監督に掛け合ってみるつもりでいます。無理だった場合は引き渡し後に気密測定を行いたいと思っています。多分このブログの読者の方もその辺の情報を知りたいと思っているはずなので後々の施主さん達の役に立てれば良いなと思います。

施主の間取り次第でどうにでもなる項目

暖房計画、冷房計画、冬の日射取得と夏の日射遮蔽の3項目は県民共済住宅では特にガイドラインがあるわけでもないので何も基準がないと思われますが、この辺は施主が理解していれば間取りを考える際や窓を決める際に反映出来る項目です。

この辺は窓の着け方だったり、エアコンの設置場所だったりで「A」にもなれば「C」にもなるので、お金をかけずとも知識さえあれば工夫次第で家の快適性を上げることが出来ます。これから家を建てる人は間取りを考える前に特にパッシブ設計(日射取得と日射遮蔽)について理解しておくとどのハウスメーカーや工務店で家を建てても大して費用をかけずに夏涼しく冬暖かい家に近づける事が出来ます。

最後に

みんなの住宅研究所の推奨仕様リストは高気密高断熱のスペシャリストの松尾設計室の松尾和也氏が中心となって作った忖度なしの基準なので県民共済住宅の標準仕様では殆どAの最低限もしくは問題ありという評価でした。オプションを入れる事で半分位の項目を「B」の最低限押さえておくレベルに持っていけますが流石に「C」の理想レベルに到達できるのはオプションの太陽光発電と給湯器の項目だけでした。

逆にこれらのオプションを入れて冷暖房計画と日射のコントロールさえしっかり行えば気密性能と窓以外の全項目をB以上に出来るので高気密高断熱のプロ目線で見て気密以外は最低限クリアしている家が建てられると言えます。

日射のコントロールや冷暖房計画に関しては間取りを施主が考えるという注文住宅ならではの特徴を活かせます。県民共済住宅では営業がいないので設計士と直でやり取り出来る分こちらの意図を伝えやすいのも好都合です。

ローコストで高気密高断熱住宅を謳っていない県民共済住宅の断熱性能については全体的に厳しい評価になりました。こうして見てみると他の工務店で建てたくなってきますが、私の場合は予算的に県民共済住宅一択なのでこれらのオプションを導入した上で県民共済住宅で建ててみて、気密測定もしてみようかと思います。

みんなの住宅研究所の理事の松尾和也氏の著書

 

住宅系YouTuberでもあり松尾設計室の代表でみんなの住宅研究所の理事の松尾和也氏は断熱のスペシャリストで著書も出版されています。

私は電子書籍で「ホントは安いエコハウス」を読みましたが、断熱や省エネ、パッシブ設計の基本、エアコンの選び方などが詳細に書かれています。当ブログの記事は松尾先生のYouTubeや著書の内容を参考にして県民共済住宅に当てはめて書いているという面が少なからずあります。

松尾先生の存在を知らなかった人は本を買う前に松尾設計室のYouTubeチャンネルを見てみましょう。断熱、気密の事や省エネに関する事が非常にわかりやすく動画で説明されています。

エアコンの動画
太陽に素直な間取りの動画
日射の取り方が上手すぎる実例紹介

他にも沢山の動画があるので時間があれば全て見ることをオススメします。根拠となる数値ありきで語る人なので情報の信頼性が高くてとても参考になります。特にエアコン関連の動画は幾つかアップされているので全て見ると適切な能力(畳数)のエアコンを自分で選べるようになります。