2022年4月末に県民共済住宅で新築した家が引き渡しされてから5ヶ月経過してようやく夏が終わりました。
私の家は「県民共済住宅で高気密高断熱住宅を目指す」というコンセプトで終始一貫して家づくりをしましたが、何のために高気密高断熱にしたのかと言えば夏でも冬でも1年中快適に過ごしたいからです。
表向きは「高気密高断熱」というテーマを掲げていますが、単に断熱材を高断熱仕様にしただけではなく高断熱化したことによる性能向上をどういう風に活かすかという点で間取りやエアコンの配置を工夫して普通のエアコンを使った全館冷暖房を裏テーマとして掲げています。
全館冷暖房は普通に居室のみを冷暖房するよりも光熱費が嵩むので建物を高断熱化して冷暖房負荷を下げて省エネを図りつつ、太陽光発電を載せて冷暖房エネルギーをある程度自活するという両面からのアプローチで快適性を最大化しながら光熱費を下げる事を目論みました。
「高気密高断熱」+「パッシブデザイン」+「普通のエアコンでの全館冷暖房」+「太陽光発電」+「オール電化」=「光熱費そこそこで超快適?」
みたいな仮説を立てて家づくりを進めてきた訳ですが、実際にひと夏過ごしてみた感想を綴ってみます。
県民共済住宅でも夏涼しい家は実現可能
まず伝えたいのが県民共済住宅でも夏暑くない家は実現可能です。
これは当然ながらエアコンを使っての涼しさになります。埼玉県内の7月や8月の暑さは通風でどうにか出来るレベルを超えているのと、夏は気温もそうですが湿度が高く、外気温が26℃位でも湿度が高くて快適ではないので暑い時期は素直にエアコンを最大限有効活用しています。
過去記事でも何度か触れましたが、私の家のエアコンは2階の階段近くに冷房用の8畳用エアコン1台と1階の階段近くに暖房用の寒冷地仕様の6畳用エアコンが1台あるだけで35坪(70畳)の空間を冷暖房するようなエアコンの配置になっています。
普段動かしているのは2階の8畳用エアコン1台だけで家中涼しくなりますが、35℃を超える猛暑日は8畳用エアコン1台だけだと涼しさにムラが出るので1階の6畳用エアコンも併用して家中涼しい状態にしています。
同じ「涼しさ」でも普通の家でエアコンの風を人に直接当てて涼しいと感じさせるような「暑い中だからこそ実感出来る涼しさ」ではなく、空間全体が均一に涼しいので家の中が避暑地みたいな感じの「そもそも暑いと感じない」ような涼しさが保たれています。
湿度を下げれば無垢床でなくても床が気持ち良い
家中エアコンで冷やすことで相対湿度が50〜65%位にまで下がるので空気がベタつかず、県民共済住宅標準仕様のニレの床もサラッとした感じで気持ちいいです。
ちなみにエアコンを止めると室温はあまり変化がありませんが、湿度60%程度から1〜2時間程度で一気に湿度75%位まで上がってしまい不快指数が急上昇するので気温がそんなに高くない日でもエアコンが止められません。
なお湿度が65%辺りで床のベトつきを感じ始めて65%以上だと明らかに快適度が落ちます。
エアコンの畳数は小さい方が暑くない日の湿度コントロールが容易
冷房用には本来10畳用のエアコンを入れるつもりでしたが、予算の都合で旧宅で使用していた8畳用エアコンを冷房用に使っています。
ひと夏過ごしてみて思うのは10畳用よりも能力が低い8畳用エアコンで良かったと言うか、むしろもっと能力が低い6畳用エアコンでも良かったと思っています。
外気温がそこまで高くなく、湿度が高い日に8畳用の冷房用の再熱除湿があるエアコンで湿度を下げようと思うと設定温度低めかつ風量最弱での冷房運転でも冷えすぎてしまいます。冷房運転(弱冷房除湿)で湿度を下げるにはエアコンの熱交換器を冷やして結露させて結露水を屋外に排出することで湿度が下がるので、畳数が大きいパワフルなエアコンだと冷えすぎてしまいます。
気温が26℃前後で相対湿度が50%台の快適な環境に慣れてしまうと外気温が25℃位で相対湿度が65%位の日でもエアコンの弱冷房運転もしくは除湿運転で湿度を下げたいと思ってしまうのでそういう日は部屋を冷やしすぎない小さい畳数のエアコンが最適です。
C値1.02程度の家でも普通のエアコンでの全館冷房は可能
私の家はUA値が0.41、C値は中間気密測定で1.02と断熱性能は6地域のHEAT20 G2レベルをクリアしているものの、C値は一般的には高気密と言って良い数値ですが、高気密高断熱住宅のカテゴリ内だと決して「高気密」と呼ばれるほど良い数値ではありません。
換気システムはダクト式の第3種換気システムなので熱交換器もなく、エアコンは今流行りの床下エアコン暖房でも小屋裏エアコン冷房でもなく、1階と2階の階段ホールにそれぞれ普通の高さで設置しています。
エアコンでの全館冷暖房を行うのに参考にしたのは「F式全館冷房」と呼ばれる一条工務店の施主ブロガーのフエッピーさんがブログで公開しているエアコンの運用手法を大いに参考にしました。
私の家の冷房用の8畳用エアコンは設定温度を下げても送風口から極端に冷たい風が出るわけではなかったのでエアコンから出る風と室温との温度差を利用して下の階の遠い部屋まで冷気を届けるというF式本来のエアコン運用が難しく、私の家ではサーキュレーターを併用して冷気を遠くの部屋まで届けています。
その時点でF式の思想とは若干異なっていますが猛暑日以外なら1階も満遍なく冷房出来ていて、猛暑日だと2階のエアコンだけだと温度ムラがあるので1階のエアコンも併用する事で温度ムラが無い快適な空間を実現出来ています。
県民共済住宅の断熱性能は一条工務店よりもかなり落ちますが、それでも問題なく家中冷やせていて相対湿度も概ね60%前後を維持出来ています。
外の空気をダイレクトに取り込む第3種換気でなおかつC値1という事もあるので相対湿度は50%台後半までは落とせますが、40%台になることはありません。
湿度コントロールを行うならワットチェッカーと温湿度計は必須アイテム
湿度コントロールをメインにエアコンを動かそうとするとエアコンのリアルタイムの消費電力を常に把握した上で温湿度計の数値を見る必要があります。
エアコンをサーモオフ(冷房設定温度まで下がると勝手に送風運転に切り替わってしまうこと)させたら湿度戻りがあり、不快指数が急上昇するので最低限ワットチェッカーと温湿度計を見ながらサーモオフしない程度で冷えすぎないエアコンの温度設定と風量調整を行いましょう。
真夏の暑い日だと湿度コントロールは割と簡単ですが、梅雨時期等の湿度は高いもののあまり気温が高くない日の湿度コントロールは非常に難しいです。設定温度が低すぎると冷えすぎて寒いし、設定温度を高めにすると今度はサーモオフしてしまい除湿が出来ないという板挟み状態になるのでワットチェッカーで除湿できる位の消費電力(100〜300Wh程度)でエアコンが動いているか見つつ、室温と湿度が快適な状態にあるか温湿度計で見るような感じです。
ワットチェッカーでエアコンの消費電力が数ワット程度ならサーモオフしているのでエアコンの設定温度を下げたり、設定温度と風量のバランスを見ながら消費電力を把握できるので最適な設定を探すのにも役立ちます。
10畳用エアコン以上の畳数のエアコンだと電源プラグの形状が異なり、普通のワットチェッカーが使えないのでF式全館冷房を行うならエアコンは6畳用か8畳用がやりやすいと思います。
エアパスファンは正直微妙
部屋のドアを閉めている時でもエアコンの風を取り込もうと室内ドア上の垂れ壁にエアパスファン(部屋間の換気扇)を装着しましたが、思っていたよりも冷気が入ってきません。
私の家では全館冷房しているので1階のドア上のエアパスファンは2階建ての家全体で見ると1階の床と2階の天井のちょうど中間位の丁度良い高さにあるので割と機能していて適度に涼しくなっています。
2階のドア上のエアパスファンに関しては、自然と冷気は下降し暖気は上昇するという事を考えると、2階のエアパスファンは暖気が溜まっている2階天井付近の空気を居室の中へと送り込んでいる事になり、そんなに涼しくない空気を引き入れてしまっている事が2階の居室が冷えない原因だと思います。
また、エアパスファンが1部屋に1つだけだとエアパスファンから空気を取り入れても循環しないので空気を取り込む用のエアパスファンと空気を排出する用のエアパスファンを用意して人工的に風の流れを作る様な設計にしても良かったです。
部屋のドアを開けておけば普通に涼しくなるので致命的な後悔ポイントにはなっていないのが不幸中の幸いです。
ただ、今思うのがエアパスファンではなく、開閉可能な室内窓もしくは建具の上部分を垂れ壁にせずに木枠を嵌めて開放しても良かったかもしれません。
ドアを閉じた居室内へ効果的に冷気や暖気を送り込むための仕掛けについてはまだ確実にこうすれば良かったという代案が浮かんでいないのでそのうちもっと良い方法を思いつくかもしれません。
夏の快適度は窓から日射をいかに入れないかも重要
夏に部屋が外よりも暑くなる原因は天井や屋根の断熱性能が足りずに屋根裏の熱気が室内まで伝わって来ているか、窓から直射日光が差し込んできて暑くなっているかのどちらかあるいは両方だと思います。
小さい畳数のエアコンで全館冷房を行うなら日射遮蔽がきちんと出来ていて冷房負荷が小さい事が前提なので「パッシブデザイン」を意識して間取りや窓の大きさや配置、軒や庇の長さを決めましょう。
夏の日射を入れない事を意識した窓の配置にすればエアコン無しでも暑くなりにくい部屋が出来るので光熱費が安くなる上快適性も上がります。
現状「通風」は意識する人が多いですが、「日射」を意識する人はそこまで多くない気がしています。
もし真夏の炎天下で直射日光がモロに当たる日向に立っていたとして、暑さを凌ぐために「日傘」と「USB扇風機」のどちらか一つを選ぶとしたらどっちを選んだ方が快適かを想像してみると日射遮蔽の重要さに気がつくと思います。
パッシブデザインを知るなら松尾先生の書籍やYouTubeチャンネルが最適
私の家では松尾先生の書籍やYouTubeチャンネルの動画の内容を参考にして、真南側の窓は最大限確保しつつ、10:3の割合の軒や庇を付けて東西北側の窓は最小限にしました。
松尾先生の理論はデータの数値と計算を元にしているので根拠が明確で再現性があります。科学的根拠に基づいた快適で環境負荷が小さい省エネ住宅を作るための知識が詰まっている本なので、これから快適な家を建てたい人や今住んでいる家が夏暑くて冬寒いけれど原因がわからない様な人は読む価値がある本です。
いきなり本を買うのは気が引けるなら松尾設計室のYouTubeチャンネルの動画をいくつか見てみて下さい。古い順から見ていく事をおすすめします。
月の電気代が1万5千円位安くなる太陽光発電は乗せておいて良かった
太陽光発電は固定価格買取制度の金額が年々下落しているので純粋な売電収入だけで元を取るのは難しいですが、太陽光発電で発電した電力を自家消費すればその分は再エネ賦課金や燃料費調整額がかからないので晴れた日の昼間は100%クリーンエネルギーかつ電気代0円で気兼ねなくエアコンが使えます。
東京電力のスタンダードSの300kWhオーバーの30.57円/kWhに2022年度の再エネ賦課金の3.45円/kWhに東京電力の2022年11月の燃料費調整額の9.72円/kWhを足すと43.74円/kWhとなりますが、太陽光発電があれば発電した電力を自家消費出来るので発電中は0円/kWhで電気が使えます。
私はロシアのウクライナ侵攻前に家の仕様を決めて契約しているので契約時はまさかここまで電気代が高騰するなんて想像すらしていませんでしたが、太陽光発電があるおかげで電気使用量の3〜5割は自家消費出来るのでその分の電気代が浮いてかなり助かっています。それに加えて月4〜8千円程度の売電収入もあるので家計的には相当助かっています。
私の家はオール電化で車も電気自動車で24時間全館冷房しているので普通の家より電気を多く消費していますが、2022年7月の電気代は太陽光発電の自家消費分と売電収入の分を差し引いても実質1万円程で済みました。8月の電気代は電力会社を変えたので7千円程度まで抑えられています。
自家消費分と売電収入を合わせると毎月1万5千円位は電気代が安くなったので太陽光は本当に乗せておいて良かったです。大雑把に計算すると年間18万円位の電気代節約効果があり、大体7〜8年で元が取れる計算になるので電力消費量が多い私の家では太陽光発電は入れておいて良かったです。
全館冷房を行うと家の大きさと断熱性能にもよりますがエアコンだけで月5,000円以上電気代がかかる事が多いので断熱性能を上げるだけでなく、太陽光発電を設置して電気代自体を下げると電気代を気にして全館冷房を止めたくなる衝動から開放されると思います。
「太陽光発電は損」という思い込みで収支のシミュレーションすらせずに屋根上の日当たりが確保できる土地で太陽光発電を載せないのはかなり勿体ないです。
屋根上なんて太陽光発電や太陽熱温水器を載せなければただのデッドスペースにしかなりませんが、屋根上に太陽光発電のパネルを載せておけば晴れている時に勝手に発電してくれて毎月の電気代が安くなります。
何よりも太陽は誰でも無料で使い放題のエネルギー源なので最大限活用しないと損です。
肝心の電気代はそこまで安くはなかった
太陽光発電が5.1kWある35坪の家で24時間8畳用エアコンをつけっぱなしでの夏の時期の電気代は1万円を超えて大体月に15,000円前後でした。
私の家はオール電化で電気自動車(BEV)もあるので普通の家よりは電力使用量が多くなります。月8千円位で収まってくれれば良いなと思っていましたが現実はそれほど甘くはなかったです。
太陽光発電の売電収入が大体4〜8千円位あるので実際は実質月1万円前後で収まっていますが正直想定よりも電気代が高かったのは誤算でした。今年は資源価格の高騰と円安のダブルパンチで燃料費調整額が高騰していて、燃料費調整額だけで月2千円以上取られている影響もあります。
最後に
「高気密高断熱」+「パッシブデザイン」+「普通のエアコンでの全館冷暖房」+「太陽光発電」+「オール電化」=「光熱費やや高めで超快適」
電気代が値上がりしている影響もあって光熱費こそ想定よりも高かったものの、快適性に関しては想像以上でした。快適性に全振りした家を建てただけあって最近の戸建て住宅ってこんなに快適なんだと驚いています。
私の家の温熱的な快適性に関しては県民共済住宅で建てられた家々の中でも最高レベルにあると勝手に思っていますが、この蒸し暑い夏でも家中本当に快適だったのでできるだけ多くの人にこの快適性を味わえる様な家づくりをして欲しいと思っています。
特にエアコンの使い方については建物が高気密高断熱化した事で従来のエアコンの畳数表示がとんでもなくオーバースペックになっていたり、家の大きさや断熱性能と日射遮蔽の徹底具合にもよりますが24時間家中冷房していてもエアコンだけの電気代が月5千円程度で済むようになってきています。
冷房で室温を下げるだけでなく湿度も下げることが出来ると快適度が大幅にアップします。
相対湿度を50%台まで落とせると床のベトつきがなくなりサラサラ感まで出てくるので更に快適になります。
そして家中温度差が無いと廊下や階段、トイレに入っても不快では無くなるので家の中で暑さを感じる事が無くなります。
家の中にいると快適すぎて外がどれ位暑いのかがわからないので家の外に出てみると気温差に驚きます。
実際に私の家では冷房計画が概ね上手くいったので夏の間はこんな感じでした。
これからは人の居る部屋だけ冷房するという考え方から家中冷房するという考え方が今後主流になっていく可能性もあるので今までの常識を捨てて今の家に最適な冷暖房計画はどういうものなのかしっかり検討してみて下さい。