
断熱性能が上がると冷暖房負荷が減る事は周知の事実ですが、実際にどの位電気代が節約になるのかは中々知る機会がありません。私の場合は県民共済住宅で高断熱仕様のオプション断熱材を入れて契約して現在家の建設中ですが、標準仕様の断熱材との光熱費の差額っていくら位だろう?と思ったので今回「エネルギー消費性能計算プログラム Ver3.1.1」を用いてシミュレーションしてみました。
このシミュレーションに用いたエネルギー消費性能計算プログラムはZEH住宅の認定などでも使われている公的なWEBアプリケーションで誰でも登録不要で無料で使えます。以前別の記事で一次エネルギー量の計算をした時や給湯器別の年間光熱費を試算した際にも活用したプログラムです。
計算の前提条件は私が実際に県民共済住宅で契約した間取り(35.74坪の長方形の総二階)を前提に実際に県民共済住宅で用いる断熱材等を用いて別記事で契約した間取りのUa値を計算した際に算出した高断熱仕様のUa値(0.41W/(m2・K))と標準仕様(0.47W/(m2・K))のUa値を元にそれぞれの設計2次エネルギー消費量の消費電力量の差分を求めてそこから電気代を割り出してみました。
その他に6地域の断熱性能別に断熱等級4、ZEH、HEAT20 G1、G2、G3まで算出してみたので県民共済住宅以外の工務店やハウスメーカーで家を建てようと思っている方々も参考にしてみて下さい。
シミュレーションの前提条件となるパラメータ
「外皮」の項目の外皮平均熱貫流率(UA)の所で断熱性能別のUA値を入力して右上の計算ボタンを押して一次エネルギー消費量を計算しています。今回の比較ではこのUA値以外の項目は一切変更していないので純粋にUA値を変更したら消費エネルギー量がどうなるかを見ていきましょう。
今回のシミュレーションでは実際に私が県民共済住宅で契約した仕様を反映したオール電化の住宅で冷暖房はエアコンのみで行うという前提で家の場所は埼玉県さいたま市(地域区分は6地域)を想定しています。
その他の前提条件となるパラメータの設定
- 暖房・冷房方式は共に「居室のみを暖房(冷房)する」
- 主たる居室もその他の居室も暖房(冷房)設備機器または放熱器の種類は「ルームエアコンディショナー」でエネルギー消費効率の入力は「入力しない(規定値を用いる)」
- 換気はダクト式第3種
- 給湯器はAPF3.8のエコキュートで浴槽は高断熱仕様、配管はヘッダー式の13A以下
- 照明は全てLED
- 太陽光は真南に5.11kW、パネル設置傾斜角は30度
- コージェネ、太陽熱、熱交換はなし
太陽光に関しては設置の有無で設計二次エネルギー消費量の消費電力量が変わってしまうので太陽光がありの場合となしの場合の両方で比較します。
県民共済住宅の高断熱仕様(UA値0.41W/(m2・K))
県民共済住宅で私が契約した間取りで窓は標準のYKKAPのAPW330(アルミスペーサー)と高断熱仕様のオプション断熱材を入れた場合の一次エネルギー消費量と設計二次エネルギー消費量の計算結果です。
Ua値の違いで冷暖房負荷がどれだけ変わって消費電力量がどれ位変わるかを見るには、左上の一次エネルギー消費量の暖房設備と冷房設備の設計一次の値(12,654MJと4,308MJ)左下の設計二次エネルギー消費量の消費電力量の4,364kWh(太陽光なしだと6,150kWh)の数値を比較します。
一次エネルギーは冷暖房負荷の違いを比較するための値で、実際の電気代の算出に使うのは設計二次エネルギー消費量の消費電力量になります。
県民共済住宅の標準仕様の断熱材の場合(UA値0.47W/(m2・K))
私の間取りで高断熱仕様の断熱材から標準仕様の断熱材に変更した場合のUA値は0.47で0.06程悪化しました。「外皮」の項目のUA値を0.47に変更して計算し直した結果になります。
一次エネルギー消費量を見てみると、先程の高断熱仕様の計算結果と異なるのは暖房設備と冷房設備だけになり、設計二次エネルギー消費の消費電力量にも変化がありました。
暖房設備が13,660MJ、冷房設備が4,256MJで消費電力量が4,438kWh(太陽光なしだと6,243kWh)になりました。
年間電気代の差額に衝撃を受けました
断熱仕様 | UA値 | 暖房一次 エネルギー | 冷房一次 エネルギー | 設計二次 消費電力量 | 年間電気代 1kWh=30円 |
---|---|---|---|---|---|
高断熱仕様(太陽光あり) | 0.41 | 12,654MJ | 4,308MJ | 4,364kWh | 130,920円 |
標準仕様(太陽光あり) | 0.47 | 13,660MJ | 4,256MJ | 4,438kWh | 133,140円 |
高断熱仕様(太陽光なし) | 0.41 | 12,654MJ | 4,308MJ | 6,150kWh | 184,500円 |
標準仕様(太陽光なし) | 0.47 | 13,660MJ | 4,256MJ | 6,243kWh | 187,290円 |
標準仕様の断熱材をオプションで高断熱仕様にアップグレードすると光熱費がどれ位節約になるか計算してみます。私の家は太陽光パネルを南面に5.11kW設置しているので「太陽光あり」の場合だと標準仕様の消費電力量4,438kWhから高断熱仕様の消費電力量4,364kWhを引き算すると74kWhが断熱仕様の違いによる消費電力量の差という事になります。
太陽光パネルを評価しないで計算すると一次エネルギー消費量に変化は無いものの設計二次エネルギー消費量の消費電力量が増えています。太陽光発電なしの標準仕様と高断熱仕様の電気消費量の差分は93kWhとなります。
電気代の差額は太陽光発電がある場合だと74kWhで、それに1kWh辺りの電気代単価30円を掛け算すると、年間2,220円が電気代の差分と言うことになります。太陽光なしの場合は93kWh×30円で年間2,790円が電気代の差分となります。
実際に計算してみると衝撃の計算結果になりかなり驚きました。「たったこれだけ?」と言うのが正直な感想です。あくまでも簡易的なシミュレーションなので実際の所はもう少し開きが出るかもしれませんが、UA値以外の前提条件を揃えたシミュレーションでこれだけしか差が無いと言うことは実際もそこまで差がない可能性が高いです。
こうして考えると県民共済住宅の高断熱仕様のオプション代約40万円(延坪35坪2階建ての場合)を光熱費の差額で回収するのは不可能だと考えられます。光熱費削減の為だけに高断熱仕様を選ぶのは採算が合わない事がはっきりと数値で出てしまいました。なおこのシミュレーションではエアコンで冷暖房を行う前提で計算しているので、もし電気ストーブやセラミックヒーターの様な熱効率が悪い暖房器具を用いた場合は光熱費の差がもっと広がります。
光熱費削減という観点だけで考えると県民共済住宅で高断熱仕様の断熱材にアップグレードしてもこれだけしか費用対効果が無いならUA値を0.01小さくする事に力を注ぐよりも間取りや窓の取り方を工夫して冬の日射取得と夏の日射遮蔽を上手に行うパッシブデザインに力を入れた方が冷暖房費の節約になりコスパも遥かに良さそうです。
高断熱仕様にするなら永続的に快適性の向上と環境負荷の低減が出来る事に価値を見出そう
高断熱仕様にすることで確実に冬の時期は標準仕様の断熱材よりも熱が抜けにくくなり快適な室温を維持しやすく、壁や床からの輻射熱の事まで考えると体感温度も上がるので快適性のメリットは確実に存在します。しかも永続的に効果が持続する上、定期的なメンテナンスも不要でランニングコストもゼロです。
また、環境負荷という面では標準仕様の暖房一次エネルギー消費量と冷房一次エネルギー消費量の合計が17,916MJで高断熱仕様にすると16,952MJになり、5.4%程冷暖房に使われる一次エネルギー消費量を削減出来るので環境負荷を減らす効果もあります。
ただ、県民共済住宅の高断熱仕様のオプション代は結構高額なので予算がカツカツなら高断熱仕様を止めるという選択肢もありかもしれません。
太陽光発電の様に高断熱仕様のオプション代の差額を電気代の削減分で元を取ろうという視点だけで考えると高断熱仕様は極めてコスパが悪いですが、快適性を上げるための「設備」として高断熱仕様のオプションを捉えると断熱材は一度入れてしまえば永続的にランニングコストやメンテナンスコストが0円で快適性向上の効果が持続するので高断熱仕様にするためのオプション代が初期コストとして発生する以外のデメリットは皆無です。
建物の快適性を上げたいなら高断熱仕様の断熱材をオプションで入れる価値はあるので高断熱仕様にしたけどこの記事を読んで後悔したという風には思わないで下さい。私も実際に電気代の差額を計算してみてマジかよと思いましたが、冷静に高断熱仕様のメリットデメリットを考えると「やっちまった」とは思いません。
いろいろな基準別のUA値でも比較してみました
県民共済住宅の私の家の断熱材の違いでこの位なら、6地域の国の基準の断熱等級4(UA値0.87)やZEH(0.6)、HEAT20 G1(0.56)、G2(0.46)、G3(0.26)でどの位変わるのか気になったのでそれぞれのUA値を入れて計算してみます。
前提条件は上のシミュレーションから変更せずに太陽光発電は評価しないで計算しました。
断熱等級4(次世代省エネ基準)のUA値0.87W/(m2・K)(6地域)
まずは国の次世代省エネ基準となる断熱等級4のUA値0.87W/(m2・K)(6地域)で計算してみました。暖房設備の設計一次エネルギー消費量が21,290MJと非常に大きくなっています。消費電力量も6,915kWhで非常に多い上、未処理負荷の設計一次エネルギー消費量相当値も862MJと先程の県民共済住宅の断熱性能で計算した時よりも大きくなっています。
ZEHのUA値0.6W/(m2・K)(6地域)
次に一般的に高性能住宅として知られるZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス)通称ゼッチのUA値0.6W/(m2・K)で計算しました。
断熱等級4に比べるとUA値が0.27W/(m2・K)も小さくなったので一次エネルギー消費量も消費電力量も少なくなっています。
HEAT20 G1のUA値0.56W/(m2・K)(6地域)
ZEHよりも僅かにUA値の基準が高いHEAT20のG1レベルのUA値0.56W/(m2・K)での計算結果です。ZEHよりもUA値が0.04W/(m2・K)小さいだけなので一次エネルギー消費量は1GJ(1,000MJ)位差がありますが、消費電力量はZEH基準と大差ありません。
HEAT20 G2のUA値0.46W/(m2・K)(6地域)
そしてHEAT20 G2レベルのUA値0.46W/(m2・K)での計算結果です。2022年現在の家づくりではHEAT20 G2が性能とコストのバランスが良いとされていて、充填断熱にオール樹脂のペアガラスのサッシの組み合わせでクリア出来る水準で私もこのHEAT20 G2レベルをクリアするのを目標にしていました。
一次エネルギー消費量も消費電力量もG1よりも少なくなっていますね。
HEAT20 G3のUA値0.26W/(m2・K)(6地域)
そして最後は一般的に知名度がある断熱性能の基準では一番厳しいHEAT20 G3レベルのUA値0.26W/(m2・K)での計算結果です。UA値が0.2台にもなると壁の付加断熱が必須になり、窓もオール樹脂のトリプルガラスを使わないとクリア不可能な水準です。この水準をクリア出来る工務店や住宅メーカーは極一部に限られHEAT20 G2レベルと比べると初期コストもそうですがこの性能をクリアするハードル自体も大幅に高くなります。
現時点で最高峰の基準だけあり、暖房一次エネルギー消費量は断熱等級4の半分以下になり消費電力量もこの中では一番低いです。
断熱基準別の年間電気代一覧
断熱仕様 (6地域) | UA値 | 暖房一次 エネルギー | 冷房一次 エネルギー | 設計二次 消費電力量 | 年間電気代 1kWh=30円 | 断熱等級4との 年間電気代差額 |
---|---|---|---|---|---|---|
断熱等級4 | 0.87 | 21,290MJ | 3,915MJ | 6,915kWh | 207,450円 | |
ZEH | 0.6 | 16,063MJ | 4,152MJ | 6,461kWh | 193,830円 | 13,620円 |
HEAT20 G1 | 0.56 | 15,202MJ | 4,183MJ | 6,382kWh | 191,460円 | 15,990円 |
HEAT20 G2 | 0.46 | 13,491MJ | 4,265MJ | 6,227kWh | 186,810円 | 20,640円 |
HEAT20 G3 | 0.26 | 10,203MJ | 4,441MJ | 5,920kWh | 177,600円 | 29,850円 |
断熱基準別の計算結果を一覧表にまとめてみました。電気代を見るとUA値が小さくなればなるほど年間電気代が安くなる傾向があり、シミュレーション上だとUA値が0.01W/(m2・K)小さくなると暖房一次エネルギー消費が190MJ位少なくなり、年間電気代が500円位安くなる感じですね。
国の基準の断熱等級4からHEAT20 G2レベル位に断熱性能を強化すると冷暖房に使う電気代が年間2万円程節約になる計算なのでこれなら断熱材や窓をアップグレードする一般的な差額も20年か30年位で採算が取れそうです。私が契約した間取りで算出した県民共済住宅の高断熱仕様と標準仕様のUA値だと差が僅か0.06W/(m2・K)しかないので電気代のインパクトは小さかったですが、ある程度UA値に開きがあると年間電気代の差額も馬鹿にならない金額になってくるという事がわかります。
暖房一次エネルギー消費量の数値も目に見えて減っているので断熱性能が高くなると環境負荷を大きく減らせることが一目瞭然です。菅政権時代に打ち出した2050年までにカーボンニュートラルを達成するという政策を考えると今後国の断熱性能の基準は確実に高くなって行くことが容易に想像できますね。
現時点では断熱等級5が近々新設され、断熱等級6と7も新設されるとかされないとか噂されています。こういう政策の変化を考えると将来的に新設されるであろう断熱等級を満たしているかいないかで中古住宅として家を手放す際のリセールバリューが変わってくる可能性が高いです。家本体の将来的な資産価値を考えるなら断熱性能を高めておくに越したことはありません。
今回のシミュレーションで見えてきたのは断熱性能が向上しても電気代に与えるインパクトはそこまで大きくないが、環境負荷の低減にはとても効果があると言えます。
断熱材は機械と違って一度入れてしまえば故障する事も無く永続的に効果が持続してメンテナンスも不要でランニングコストもかからないので1年間だけで見ると小さな違いかもしれませんが、これが10年20年と続く事を考えると塵も積もれば山となります。長期的な視点でどれ位の断熱性能が良いか判断する事が大切ですね。
最後に
断熱性能別の電気代の計算をしてみましたが個人的にはとても興味深い結果になりました。
実際にUA値別に消費電力量を比較してみると南面の日射取得が出来る窓を小さくしてUA値を0.01〜0.03位小さくするよりも日射取得で太陽の熱を取り込んだ方が暖房費の削減が出来そうなことが容易に想像できます。温熱のことを解っている実務者の方々がUA値よりも日射取得と言っているのはこういう事なのかと今回実際に計算してみて腑に落ちました。
実際私もそうだったのですが、高気密高断熱住宅を求める施主はUA値をどうやって小さくしようかというわかりやすいUA値の事ばかりに注目しがちでそれ以外の要素がなおざりになりがちですが、本質的にはUA値が小さい家に住みたいのではなく冬に暖かくて年中快適な家に住みたいと思っているはずです。快適な家にする為には断熱性能は不可欠ですが、断熱性能だけ追い求めるだけでは足りないのでUA値に注ぐ情熱をパッシブデザインやエアコンの適切な容量選定だったり、全館冷暖房などの他の要素にも注いでみて下さい。その上で断熱性能や快適性に関係ない注文住宅で実現したい自分達にとって理想の暮らしを実現できるように頑張って欲しいと思います。
このシミュレーションの問題点としては全館エアコンで冷暖房するような想定にはなっていないのと、設計の工夫で上手く日射のコントロールが出来た場合の日射熱の反映が出来ていないので厳密なシミュレーションとは言えません。特にパッシブハウスレベルのほぼ無暖房住宅みたいな日射熱を最大限活用している建物の場合はこのシミュレーションでは電気代の差額が計れないと思います。
理想は新住協に加盟する工務店が使うQPEXやパッシブハウスジャパンの建もの燃費ナビというソフトウェアを使ってシミュレーション出来ればより精度が高い結果が出ると思いますが、それらのソフトウェアは誰でも簡単に無料で使える代物ではないので一般の施主がこういうシミュレーションをする場合は今回使用した「エネルギー消費性能計算プログラム」を使うのが一番良い方法だと思います。
それにしてもこの計算に使用した「エネルギー消費性能計算プログラム Ver3.1.1」は使い方次第でとても面白い事が出来ると思いました。エコキュートとガス給湯器のランニングコストを比較したりだとか暖房機器によるランニングコストの差もシミュレーション可能です。家の性能に興味がある人はこのWEBアプリケーションを使っていろいろ試してみると新たな気づきがあると思います。私も実際に計算することで新しい発見があったのでやはり自分で計算してみるのは大切だなと思いました。