県民共済住宅では標準的なUa値を公表していません。ただ、実際に間取りを確定する際に県民共済住宅でも追加費用を払えば建物のUa値を出してくれます。ただ、ある程度のUa値はわざわざ計算しなくても使われている断熱材の性能から逆算することが出来ます。標準の断熱材、オプションの吹付け断熱、オプションの高断熱仕様と2020年〜2021年の仕様だと3パターンの断熱仕様が用意されているのでそれぞれの性能を割り出してみました。

結論としては標準的な四角い総二階の家の場合、標準の断熱材と標準サッシのAPW330で大体Ua0.5前後、高断熱仕様とAPW330でUa0.45前後に落ち着いてきます。6地域の断熱等級4のUa値が0.87でそれより高性能なZEH(ゼッチ)住宅のUa値が0.60なので県民共済住宅は標準仕様の断熱材でもZEHレベルをクリア出来る断熱性能を持っています。

HEAT20の基準でも6地域のG1レベルのUa値0.56は標準でもクリア可能でUa値0.46のG2レベルも標準仕様の断熱材ではクリアするのは難しいものの、オプションの高断熱仕様の断熱材を入れればG2レベルもクリア可能な水準になります。

追記:「県民共済住宅の断熱仕様で実際にUa値を計算してみた」という記事で私の間取りと窓の種類をベースにUa値を計算したところ高断熱仕様でUa値が0.41W/(m2・K)、標準仕様で0.47W/(m2・K)になりました。

Ua値0.26のG3レベルは充填断熱だけの県民共済住宅では仮に窓を1つも付けなかったとしてもクリア不可能な水準です。Ua値が0.3位の水準になってくると内壁の充填断熱の他に外壁の付加断熱(外断熱)が必要になってきます。外断熱(付加断熱)のオプションが無い県民共済住宅でHEAT20のG3レベルを目指すのは2021年現在では不可能です。

なお、Ua値は窓の数や面積、壁の面積等を基に算出される数値なので一棟一棟数値が異なり、窓が多い開放的な家やコの字の形状の建物や上から見て「回」の様な形状の中庭があるような外皮面積が大きい家は当然ながら普通の形状の家と比べてUa値は悪化します。

断熱を語る上では気密もセットに考えるべきですが、県民共済住宅で気密性能をこだわろうとしてもそもそも気密測定をしていない県民共済住宅ではあまり出来ることがありません。

気密性能を向上するために出来ることと言えば気密性の低い引違い窓系を極力使わない事と、キッチンのレンジフードの排気口のシャッターを風圧式シャッターから気密性の高い電動シャッターに変更する事位だと思います。

そのため、この記事では「高気密高断熱」を売りにしていない県民共済住宅でどこまで外皮性能を上げられて温熱的に快適な家に出来るのかを使っている断熱材の性能から読み解いていきます。

県民共済住宅の断熱工法

県民共済住宅では床は床下断熱(床断熱)、壁は充填断熱(内断熱)、屋根は基本的に天井断熱です。オプションの吹付け断熱を選んだ場合は屋根断熱になります。また、最上階が勾配天井の場合もその部分が屋根断熱になります。どれも一般的な断熱工法です。

県民共済住宅で家を建てる場合、床は基礎内断熱が良いとか壁の充填断熱にプラスして外断熱も追加したい的な要望は受け付けていません。そのため最近流行りの床下エアコン暖房なんかは県民共済住宅では実現出来ません。

県民共済住宅の標準仕様の断熱材

県民共済住宅の標準仕様の断熱材(上が旭ファイバーグラス、下がマグ・イゾベール)
県民共済住宅の標準仕様の断熱材(上が旭ファイバーグラス、下がマグ・イゾベール)

上の写真は県民共済住宅の標準で使われている断熱材になります。説明書きを見ると設計担当者により旭ファイバーグラスかマグ・イゾベールのどちらかのメーカーのグラスウールが使われるようですね。こちらは天井と壁の袋入りのグラスウールで床の断熱材の展示はありませんでした。

オプションの高断熱仕様で使われている断熱材

県民共済住宅のオプションの高断熱仕様の断熱材
県民共済住宅のオプションの高断熱仕様の断熱材

県民共済住宅の新都心本店に展示してあった高断熱仕様の断熱材です。床がフェノールフォームの断熱材で、壁と天井が袋入りの高性能グラスウール(20K)ですね。

壁の標準のグラスウール断熱材は旭ファイバーグラスの場合密度10Kのグラスウールで、高断熱仕様の密度20Kの高性能グラスウールよりも性能が落ちます。マグ・イゾベールの方は密度16Kの高性能グラスウールですね。

高断熱住宅のトップランナー的な工務店でも使われている床のネオマフォームが目を引きます。県民共済住宅は床断熱工法なので1階の床が断熱材を挟んで冷たい外気に触れる分基礎断熱よりも床が冷たくなりやすいので欲を言えば厚みが100mm位あれば良いのにと思います。

断熱材の性能をメーカーサイトで確認

上の展示の写真だけではどれ位性能があるのかがわからないので実際に商品名と厚みから断熱材メーカーのWEBサイトをチェックしてみました。

税込20,900円+坪11,000円(平屋は+坪16,500円)のオプションで選べる高断熱仕様

  • 天井は旭ファイバーグラスのアクリアR57 200mmで熱抵抗値(R値)が5.7の高性能グラスウール
  • 壁は旭ファイバーグラスのアクリアネクストα 20K 105mmで熱抵抗値が3.1の高性能グラスウール
  • 床は旭化成建材のネオマフォーム 66mmで熱抵抗値が3.3のフェノールフォーム

標準仕様

  • 天井が熱抵抗値4.1の高性能グラスウール
  • 壁が熱抵抗値2.3の高性能グラスウール
  • 床が熱抵抗値2.2のプラスチック系断熱材

断熱材のメーカーは選べず、担当者によって旭ファイバーグラスかマグ・イゾベールのどちらかのグラスウール断熱材になるようです。

熱抵抗値(R値)は数値が大きい程熱を通しにくい、つまり高性能です。こうして熱抵抗値を見ると天井、壁、床とも標準仕様よりも高断熱仕様の方が強化されている事が分かります。

オプションの吹付け断熱に関しては実際の施工時の厚みが不明なのでとりあえずカタログ上にあった厚みと熱抵抗値を参考までに記載しました。

なお、2021年3月契約以降は吹付け断熱の取扱が無くなりました

天井の断熱材の仕様一覧

仕様断熱材メーカー断熱材熱伝導率厚さ熱抵抗値(R値)
高断熱仕様旭ファイバーグラスアクリアR570.035200mm5.7
標準仕様旭ファイバーグラスアクリアマット0.038155mm4.1
標準仕様マグ・イゾベールイゾベール・スタンダード0.038155mm4.1
吹付け断熱積水ソフランウイズソフラン-R ウイズフォーム0.040160mm4.0
天井の断熱材の比較(標準仕様の旭ファイバーグラスの断熱材は厚みとカタログのR値から推測)

表の簡単な見方としては一番右側の熱抵抗値(R値)の数値が大きければ大きいほど熱を通しにくく高性能です。断熱材の性能を判断する上で断熱材自体の熱伝導率と断熱材の厚さの両方が重要です。熱抵抗値は「厚さ(mmではなくm単位)÷熱伝導率」で算出する数値なので細かいことがわからなくても熱抵抗値の値を見ておけば断熱材の性能が判断できます。

天井の場合、高断熱仕様だと標準仕様よりも熱伝導率が小さく高性能なグラスウールを使っていてなおかつ厚みも45mm程厚くなっているので熱抵抗値(R値)が1.6も差があります。

天井(屋根)の断熱性能が弱いと屋根裏の熱気が最上階の天井へと伝わって天井付近が熱くなりエアコンをつけても中々冷えずに暑苦しくなります。一般的に屋根面の断熱が一番大事と言われているのはこのためです。県民共済住宅ではその点も考えられているのか標準仕様でも高断熱仕様でも屋根の断熱性能が壁や床よりも高くなっているのがわかります。

また、ルーフバルコニーの様な1階の天井上にバルコニーが来るような間取りの場合、天井と同じ断熱材がルーフバルコニーの下(1階の天井上)に入ります。

高気密高断熱の家を建てる工務店の場合、屋根面の断熱材の厚みは高性能グラスウール(16K)で300mm位程確保する所が多いのでもしかしたら標準仕様の断熱材では若干の力不足があるかもしれません。

壁の断熱材の仕様一覧

仕様断熱材メーカー断熱材熱伝導率厚さ熱抵抗値(R値)
高断熱仕様旭ファイバーグラスアクリアネクストα0.034105mm3.1
標準仕様旭ファイバーグラスアクリアネクスト0.043100mm2.3
標準仕様マグ・イゾベールイゾベール・スタンダード0.03890mm2.4
吹付け断熱積水ソフランウイズソフラン-R ウイズフォーム0.04088mm2.2
壁の断熱材の比較(標準仕様の旭ファイバーグラスの断熱材は厚みとカタログのR値から推測)

壁も高断熱仕様の方が熱伝導率、厚みとも良い物になっていてR値も0.7か0.8位向上しています。標準仕様でもアクリアマットとイゾベール・スタンダードで微妙な差がありますね。

マグ・イゾベールの方は厚みが90mmなので県民共済住宅のカタログに載っている熱抵抗値2.3よりもちょっとだけ高性能です。

壁の断熱性能が弱いと冬の暖房費が上がる形で実感できるのではないかと思います。壁の場合は床や天井(屋根)と比べて建物に占める面積の割合が大きく、アルミ樹脂複合サッシや樹脂サッシを使っている住宅では窓よりも壁からの熱損失が一番大きくなるので壁の断熱性能を上げる意味は大きいです。

断熱材の防湿シートの性能も高断熱仕様のアクリアネクストαと標準仕様のマグ・イゾベールのイゾベール・スタンダードはJIS A 6930 同等の防湿気密フィルムですが、標準のアクリアマットはそこまでの防湿性能が無いようです。

床の断熱材の仕様一覧

仕様断熱材メーカー断熱材熱伝導率厚さ熱抵抗値(R値)
高断熱仕様旭化成建材ネオマフォーム0.02066mm3.3
標準仕様旭ファイバーグラスアクリアUボードNT0.03680mm2.2
標準仕様一村産業MSフォームボード90mm0.03790mm2.4
床の断熱材の比較(標準仕様の旭ファイバーグラスの断熱材は厚みとカタログのR値から推測)

床も当然高断熱仕様の方が熱抵抗値が高く高性能になっていますが、断熱材の厚み自体は標準仕様の方が厚いですね。ただ、熱伝導率が高断熱仕様の物と標準仕様の物とで1.8倍も性能差があるので標準仕様の方が多少の厚みがあっても熱抵抗値は1.1も差があります。マグ・イゾベールの場合は一村産業のMSフォームボードの90mmが床に入るようです。

標準仕様なら旭化成建材よりもマグ・イゾベールの方が若干高性能ですね。

床の断熱性能が高いと冬に1階のフローリングの冷たさが緩和される形で効果が出ると思います。県民共済住宅は床下断熱で1階のフローリングの下は構造用合板を挟んで床の断熱材があり、その下は外気となるので床が冷たくなりやすいです。その問題を緩和する為に床の断熱材を強化する意味はあると思います。

断熱材を強化する以外に床の冷たさを緩和する方法は柔らかい木材の無垢床を入れたり、床暖房を入れるという方法もあります。恐らく一番快適になるのは床暖房の導入ですが、導入の際に多額の費用が発生し、更に光熱費もかかってきます。

外気床の断熱材の仕様一覧

仕様断熱材メーカー断熱材熱伝導率厚さ熱抵抗値(R値)
高断熱仕様旭ファイバーグラスアクリアUボードNT0.036120mm×26.6
標準仕様旭ファイバーグラスアクリアUボードNT0.036120mm3.3
床の断熱材の比較(標準仕様の断熱材は厚みとカタログのR値から推測)

外気床は基礎に接していない床で例えば1階にインナーガレージがある場合の天井部分や2階をオーバーハングさせた部分の床の事です。外気床の断熱材は高断熱仕様も標準仕様も同じ120mmのアクリアUボードを使っています。ですが、高断熱仕様は120mmを2枚重ねにするので性能は2倍になります。

オーバーハング構造だとオーバーハングした部分の床が冷たいと言うのはよく聞くので高断熱仕様なら熱抵抗値が6.6で天井よりも高いので断熱材がちゃんと施工されれば冷たくなる事はなさそうです。

断熱材の素材の違いについて

断熱材はグラスウールやロックウール、セルロースファイバー、ウレタンフォームなど様々な素材がありますが、基本的に素材の違いは意識せずに熱伝導率が小さくて厚みが厚い、つまり熱抵抗値(R値)の数値が大きい断熱材を選んでおけば問題ないと思います。この辺は性能と価格で判断して良いと思います。

その他に考慮したほうが良い点は施工性の良さです。吹付け断熱の場合は施工性が良く気密性能が確保しやすいというメリットがあります。

県民共済住宅の標準仕様の断熱材と高断熱仕様の断熱材はどちらも施工性が良いとは言えない袋入りのグラスウールです。施工品質が完全に現場の大工さん任せとなり、雑な大工さんに当たってしまったらきちんと施工されるか不安という大きなデメリットがあります。袋入りのグラスウールは袋なしのグラスウールに比べて隙間が出来やすく気密性能を出しにくい欠点もあります。断熱材の施工が雑だと隙間やグラスウールの偏りが出来てその部分が断熱欠損となりカタログ値通りの性能が出せません。

これに関しては気密測定を行ってC値(相当隙間面積)を測れば断熱材の施工品質の良し悪しが数値で解るのですが、県民共済住宅では気密測定を行わないのでこの点に関しては気密測定を行うハウスメーカーや工務店と比べると県民共済住宅が明確に物足りない点です。

高断熱仕様にすることで実際のUa値はどう変わるか

住宅相談時にUa値を質問して数日後に回答を手紙で受け取ったので高断熱仕様と標準仕様の平均熱貫流率(Ua値)を掲載します。木造建築の場合、平均熱貫流率(UA)と実質熱貫流率(U)の値は同じになります。

高断熱仕様の断熱材と標準仕様の断熱材の平均熱貫流率(Ua値)
高断熱仕様の断熱材と標準仕様の断熱材の平均熱貫流率(Ua値)

画像の数値を表に起こしました。県民共済住宅では有料でUa値の計算をして頂けるとの事です。部位別のUa値というかU値を出して頂けたのでこの数値を使って大体のUa値が計算出来ます。

部分別の実質熱貫流率(U値)

断熱部分高断熱仕様標準仕様
天井0.168W/(m2・K)0.232W/(m2・K)
屋根0.183W/(m2・K)0.246W/(m2・K)
0.394W/(m2・K)0.479W/(m2・K)
その他の床0.362W/(m2・K)0.411W/(m2・K)
外気床(インナーガレージの天井など)0.177W/(m2・K)0.325W/(m2・K)
県民共済住宅の高断熱仕様と標準仕様の部分別実質熱貫流率(U値)

熱貫流率の値の見方ですが、数値は熱の伝えやすさなので値が小さい方が高性能(熱が伝わりにくい、つまり高断熱)です。

まず天井ですが、高断熱仕様が0.168と標準仕様の0.232と比べて0.064(約28%)向上し、壁が高断熱仕様の0.394と標準仕様の0.479と比べて0.085(約18%)向上し、床が高断熱仕様の0.362と標準仕様の0.411と比べて0.049(約12%)向上しています。

外気床(インナーガレージの天井など)はインナーガレージ等で1階部分が外部扱いになる所や玄関を凹ませたりする間取りの2階部分の床に入る断熱材で高断熱仕様では標準仕様の断熱材を2枚重ねにするので0.148(約45%)の向上です。外気床部分のUa値は頂いた手紙には記載されていませんでしたが、設計士さんとの打ち合わせの際に頂いた部位U値計算シートの値を記載しています。

注目すべきは壁の熱貫流率が0.085も向上している事です。割合としては2割に満たないですが、壁は4面以上あるので面積が天井や床よりも大きくなるため影響も大きいです。壁からの熱損失を減らせるのは特に冬場の快適性向上と光熱費削減に効いてくるはずです。

後日追記:「県民共済住宅の断熱仕様で実際にUa値を計算してみた」という記事で私の間取りと窓の種類をベースにUa値を計算したところ高断熱仕様でUa値が0.41W/(m2・K)、標準仕様で0.47W/(m2・K)になりました。

県民共済住宅の場合、窓が標準で樹脂サッシのAPW330が選べるので標準仕様の断熱材でも6地域の断熱等級4(Ua値0.87)は当然ですが6地域のZEHレベル(Ua値0.6)どころか6地域のHEAT20のG1(Ua値0.56)の断熱性能もクリア出来ます。流石に標準仕様の断熱材ではHEAT20のG2(Ua値0.46)にギリギリ届くか届かないか位の値が限界です。実際に計算してみた感じでは普通の間取りで窓も普通程度なら大体0.48〜0.52位に収まりそうな感じです。

高断熱仕様の断熱材を入れれば6地域のHEAT20のG2(Ua値0.46)もクリア出来そうです。流石にHEAT20 G3(Ua値0.26)には遥かに及びませんが、オプションの高断熱仕様+標準の窓でもUa値0.4台前半でG2レベルをクリア出来そうな感じなのは朗報です。私の間取りと窓の種類で実際にUa値を計算してみて0.41W/(m2・K)だったので窓が余程多くない限りG2もクリア可能でした。

窓についてはトリプルガラスへの変更や樹脂スペーサーへの変更、APW430へのアップグレードは県民共済住宅のルール上不可能という事でした。

Ua値は建物の大きさや土間部分の面積、外壁の面積、窓やドア(開口部)の数や大きさで変化します。あくまで私の間取りと窓の種類で計算した数値なので他の家の数値がこの値になるとは限りません。あくまで目安として見てみてください。

建物からの熱損失を少なくする為の工夫

断熱材を標準仕様からオプションの高断熱仕様に変える事は勿論有効ですが、その他にも気をつけるべき点があります。特に窓に関してはよく検討することをおすすめします。

県民共済住宅の標準で選べる窓について

YKKAPショールームの窓の性能を体験するコーナー
YKKAPショールームの窓の性能を体験するコーナー

断熱に力を入れるなら最低限樹脂サッシを導入すべきです。県民共済住宅の窓はYKKAPのAPW330シリーズ(樹脂サッシ)かLIXILのサーモスII H(アルミ樹脂複合サッシ)が標準で選択できます。以前はLIXILの窓でサーモスXが選択出来ましたが、いつの間にかサーモスII Hにダウングレードされていました。

窓はガラス面よりも窓枠のサッシ面から熱が伝わりやすいです。素材自体の熱の伝わり易さはアルミ>樹脂なのでアルミ樹脂複合サッシは樹脂サッシよりも熱が伝わりやすく断熱面で不利となります。サッシ部分の熱が伝わりやすいと冬に結露するリスクが高まります。上の写真の上部のサーモグラフィーを見るとアルミ窓やアルミ樹脂複合窓の窓枠下部の温度が低くなっている事が分かります。この温度が低くなっている部分があると結露するリスクが高まります。

YKKAPのAPW330は外側も内側も樹脂で出来ている樹脂サッシです。LIXILのサーモスXやサーモスII Hは外側はアルミ、内側は樹脂でアルミ樹脂複合サッシなので断熱性能はAPW330>サーモスII Hとなります。

YKKAPの熱貫流率1.31W/(m2・K)の数値もガラスはLow-e複層ガラスで同じですが、スペーサーが樹脂スペーサーではなくアルミスペーサーなので熱貫流率が1.37W/(m2・K)と若干悪化します。それでも標準仕様で比べるとYKKAPのAPW330の方が高性能です。なお、これらの熱貫流率はどちらも気密性の高い縦すべり出し窓を基準にしています。

樹脂サッシとアルミ樹脂複合サッシの場合、アルミ樹脂複合サッシの方がサッシ部分(窓枠)から窓の外の熱が伝わりやすいため樹脂サッシと比べて結露しやすくなります。勿論、アルミ樹脂複合サッシでも普通のアルミサッシと比べて熱の伝わりにくさが雲泥の差です。

県民共済住宅の標準仕様の窓はLIXILのサーモスII HとYKKAPのAPW330の2択ですが、性能的にはAPW330の方が上なのでLIXILの社員でもなければAPW330を選ぶべきだと思います。

窓の種類について

窓は一般的な引違い窓や滑り出し窓、はめ殺しのFIX窓など何種類もありますが、APW330同士の同じ窓シリーズでも窓の種類によって断熱性能や気密性能が異なります。YKKAPのWEBサイトやカタログの後ろの方の細かい数値を見ると載っていますがAPW330の樹脂スペーサー仕様の滑り出し窓系やFIX窓、ツーアクション窓の場合熱貫流率1.31W/(m2・K)ですが、引違い窓系の場合は1.36W/(m2・K)と数値が若干悪化しています。

引違い窓や上げ下げ窓は構造上隙間が出来るので滑り出し窓の様な窓のフレームと密着して閉じるタイプの窓と比べて断熱性能や気密性能が落ちてしまいます。断熱や気密に拘るなら引違い窓や上げ下げ窓の採用は最小限にした方が高性能な家になります。ルーバー窓(ジャロジー窓)も気密性能が低いので夏冬に快適な家を望むなら止めたほうが良いでしょう。

窓の大きさについて

窓の断熱性能は県民共済住宅で標準で選べる窓のAPW330(アルミスペーサー)の熱貫流率が1.37W/(m2・K)で、県民共済住宅の標準の断熱材を使った壁部分の熱貫流率が0.476W/(m2・K)なので窓は壁の3分の1程度の断熱性能しかない事になります。APW330より高性能なトリプルガラスの樹脂サッシのAPW430でも0.89W/(m2・K)で壁の半分位の断熱性能にしかなりません。こうして数値を比較してみると窓が断熱の穴だということが分かりますね。

ちなみに外部設計士さんにAPW430の窓は入れられるか聞いた所、APW430シリーズの窓は県民共済住宅では個別見積りでも入れられないとの事でした。ならAPW330のトリプルガラス仕様に出来るかも聞きましたがこれも不可能との事でした。

そんな断熱の弱点になる窓ですが、採光や日射取得、眺望の確保、通風といった窓にしか出来ない役割があります。窓から入ってくる光(直射日光)は明るさだけでなく太陽の熱も外から建物の中へと運んでくるので冬は燃料費ゼロ円の貴重な熱源になります。高断熱住宅の場合、窓ゼロの家よりも南側の窓を最大限大きくして太陽の日射熱を最大限取り込んだ家の方が光熱費が安くなるという計算結果も出ています。冬は日光を取り込めば室内が暖かくなりますが、夏は日光を取り入れると当然ですが室内が非常に暑くなるので軒や庇、アウターシェードやすだれ等での室外側での適切な日射遮蔽もセットで計画しておきましょう。カーテンやブラインド、ハニカムシェード等で室内側でも日射遮蔽は出来ますが、室内側で日射遮蔽をしても太陽の熱は窓の内側に入ってくるので何もしないよりは遥かにマシですが室外側で日射遮蔽を行うよりも効果が少ないです。

高断熱住宅のセオリーとして南の窓は大きく取り、東西と北の窓は最小限にすると良いと言われています。北面は直射日光がほぼ入らないので腑に落ちると思いますが、東西は直射日光が入るのに何故小さい窓が推奨なのか疑問に思いましたが、東西は南面と比べて日射が当たる時間が短く、窓から取り込める熱量と窓からの熱損失を計算すると窓からの熱損失の方が多いという計算結果から東西の窓も小さくすべしとなった様です。また、東西の窓は南側の日射遮蔽では非常に効果的な庇や軒が日没や日の出で太陽高度が低くなる東西側の窓だと役に立たないため日射遮蔽が難しいという問題もあります。

しかしながら窓は眺望の確保という得難い利点もあるので景色の良い方角の窓は例外的に大きく取ったり、南面でも隣の家がすぐ近くに迫っていて冬の日射が取れない場合は窓を小さくしたり立地によって最適な条件が異なるのが難しいと言うか奥が深い点ですね。

この辺りの話は「パッシブデザイン」というキーワードで検索すると詳しく出てきます。あくまでも「デザイン」なのでこの辺の基本的な知識を得てから間取りや家のデザインに反映するだけで冬の日射取得や夏の日射遮蔽の事を何も考えずに作った間取りやデザインの家と比べて光熱費が安くなり快適な家になると思います。

手っ取り早く断熱やパッシブ設計の知識をつけるなら松尾設計室のYoutubeチャンネルが建築系Youtuberの中でも根拠が明確かつわかりやすくてオススメです。

断熱性能の観点から玄関ドアも考える

県民共済住宅の標準仕様の玄関ドアのヴェナートD30(D2仕様)
県民共済住宅の標準仕様の玄関ドアのヴェナートD30(D2仕様)

断熱性能を考える上で忘れがちなのが玄関ドアの性能です。

県民共済住宅では標準でYKKAPのヴェナートD30のD2仕様かLIXILのジエスタ2のK2仕様が選べます。ドアの熱貫流率を比べるとYKKAPのヴェナートD30の片開き・採光なしが1.79W/(m2・K)、LIXILのジエスタ2の片開き・採光なしも1.79W/(m2・K)と全く同じ断熱性能です。片開きで採光ありのタイプだとヴェナートD30が2.25W/(m2・K)でジエスタ2も2.25W/(m2・K)とこちらも全く同じ断熱性能玄関ドアはメーカー間の断熱性能の差が無いので好みで選べます。

どちらのメーカーも採光のガラス部分の有無で熱貫流率が0.46W/(m2・K)も変わってくるので断熱性能の観点からドアを選ぶなら片開きの採光なしの物を選んで、ドアの近くに採光用の窓を別途設けるのが良さそうです。

設計士さんとの打ち合わせの際にドアのアップグレードが出来るか聞いた所、同シリーズ内なら可能だが別シリーズは不可との事なのでイノベストD50の様なヴェナートD30シリーズよりも高性能なドアは導入できない様です。

断熱の観点から間取りを考えてみる

間取りと断熱性能に関係があるのか?と疑問に思うかもしれませんが、断熱性能=建物の外皮性能です。建物内部の熱は室内から壁や窓、床、天井(屋根断熱の場合は屋根)をじわじわ伝わって建物の外へと逃げていきます。勿論換気口からも熱が出ていきますが、それは間取りの熱損失とは関係ないので置いておきます。

例えば、上から見て「□」の様な形の正方形の間取りの家と「凹」という正方形から正面を凹ませた形の同じ床面積の家があった場合、どちらがより高性能でしょうか。勿論同じ床面積で同じ断熱材や窓を用いている場合です。

正解は「□」の正方形の家の方が熱が逃げません。理由は「□」と「凹」では床面積が同じでも壁の面積が異なるからです。

正方形の間取りの家の場合、壁が4面で壁の合計面積が最小となりますが、凹凸があるとその分壁の面積が増えてしまいます。つまり増えた壁の面積分壁からの熱損失が大きくなるという事です。

断熱の観点から言えば外周部分に凹凸のある家は熱損失が大きくなるのでおすすめしません。また、耐震の観点からも凹凸があると望ましくないです。

最後に

こうして断熱材の仕様から数値を見てみるとオプションの高断熱仕様の断熱材を選んでも県民共済住宅では流石に一条工務店や一部のスーパー工務店の様なHEAT20 G3の基準をクリアするUa値0.2台の家を建てている所には遠く及びませんが、標準仕様でも6地域のHEAT20 G1レベルの断熱性能がある事が分かりました。高断熱仕様だと6地域のHEAT20 G2レベルに高性能化出来てそこそこ良い感じの断熱性能になります。

ただ、高断熱化とセットで考えるべき高気密化が県民共済住宅ではどこまで出来ているのかがわかりません。袋入りグラスウールを使って気密測定もしていない事を考えると県民共済住宅に気密性能を上げるノウハウは無さそうなので「高気密」と言えるC値0.5以下になることはまず無いと思います。C値1以下も厳しそうです。県民共済住宅で建築後に自腹で気密測定を行った施主さんの記事がアメブロに1件ありましたが、その方はC値3.5だったそうです。残念ながらその方のブログに間取りやどの断熱材を用いたかの情報が無いので詳細はわかりませんが、外壁面のコンセントの事を気にしていた様なので高気密高断熱住宅の知識はかなりあると思われる施主さんの家で3.5は相当残念な数値です。

高断熱仕様のオプションを入れずとも標準の窓を樹脂サッシのAPW330を選んでエピソードNEOの様な標準仕様の窓(APW330)よりも断熱性能が落ちるオプションの窓を入れないようにして、滑り出し窓系よりも気密性能が低い引違い窓系を最小限にして、不要な窓をつけないだけでも違ってくるので家を建てる時には窓の性能も意識してみてください。

高断熱仕様の断熱材を選ぶデメリットは最初の施工コストが高くなる以外無い上、メリットは室内の気温が一定に保たれ快適になり、なおかつ冷暖房に費やすエネルギーが少なくて済むので省エネで冷暖房費が少しばかり安くなるというメリットが生まれてきます。それに断熱材の場合、設備と違い一度施工してしまえば故障する事も無ければ定期的なメンテナンスもいらないし、ランニングコストもかからない上そうそう劣化するものでもないのでメリットデメリットを考えると非常にコスパの良い投資だと考えます。

SDGsという言葉がよく聞かれる昨今ですが、持続可能性という観点から考えても少ないエネルギーで冷暖房する事の重要性は今後増してくると考えられます。実際に電気代も年々上昇傾向にあるし、国が設定する断熱性能の基準値も今後はより厳しくなっていく可能性が高いです。

家を建ててしまった後に断熱性能を上げたくなっても新築時と違って大掛かりなリフォームが必要になります。現在だけでなく10年後、20年後も見据えて断熱材を選定しましょう。